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③心臓手術と対象疾患〜弁膜症について
心臓の中には上下左右、合計4つの部屋があります。それぞれの部屋の出口に弁が付いており、一度部屋を出て行った血液が逆流してこないようになっています。これにより、血液は常に一方通行で全身を駆け巡り、効率よく酸素・二酸化炭素の運搬が行われています。
これらの弁に異常をきたす疾患を総称して弁膜症と呼びます。
心臓の弁には、大動脈弁・僧帽弁・肺動脈弁・三尖弁がありますが、頻度が多いのは大動脈弁疾患と僧帽弁疾患、ついで三尖弁疾患です。 弁がうまく機能しなくなり血液が漏れてしまう病気を閉鎖不全症と呼びます。弁が固くなったりして狭くなってしまう病気を狭窄症と呼びます。
大動脈弁が狭くなれば大動脈弁狭窄症、僧帽弁が漏れてしまうと僧帽弁閉鎖不全症、と言った具合に名前が付きます。 大動脈弁疾患には大動脈弁狭窄症と大動脈弁閉鎖不全症がありますが、これらに対する心臓手術は弁置換術が主体です。自分の弁を取り除いた後、人工弁を縫着します。大動脈弁置換術と呼ばれる手術ですが、心臓の中を操作するため、人工心肺を使用して、心臓を止める必要があります。心筋保護液という特殊な液を心臓に注入することで、一時的な冬眠状態を作ることができます。心臓手術が終わったら、再び心臓を血液で満たすことで心臓が再び動き出します。
大動脈弁手術は多くは弁置換術が行われますが、最近では弁形成術や自己弁温存基部置換術も行われるようになっています。自己の大動脈弁を修理したり、自己弁を残したまま大動脈基部を取り換える方法などがあります。当院では現在まで約70例の大動脈弁形成・基部置換術をしておりますが、大動脈弁形成術にはメリット・デメリットがありますので、形成術が適切かどうかは医師にご相談ください。
また、小切開アプローチ(Minimally Invasive Cardiac Surgery: MICS)での大動脈弁置換術も積極的に行っています。
僧帽弁手術
僧帽弁疾患にも、弁が狭くなる僧帽弁狭窄症と、閉じが悪く逆流が生じる僧帽弁閉鎖不全症があります。
僧帽弁狭窄症の場合、多くは僧帽弁置換術が適応となります。自己の僧帽弁組織を切り取り、人工弁を縫着する手術です。
長年の研究により、僧帽弁を人工弁に置換する場合、腱索と呼ばれる組織を温存したほうが後の心機能が保たれることが分かっています。当院では、自己の腱索を極力温存し、人工弁置換を行います。腱索をやむを得ず全て切除した場合も、人工腱索を使用して、心機能を保つよう工夫しています。僧帽弁狭窄症でも、弁形成が可能な場合があります。狭窄症に対する弁形成術にはメリット・デメリットがありますので、医師にご相談ください。
僧帽弁閉鎖不全症の場合、弁形成術を第一選択としています。自己の弁組織を用いて弁を修復し、必要に応じて人工腱索やリング(大きくなった弁輪を縮めるのに使用します)を用いて修理します。
当院では、弁膜症の占める割合が多く、現在まで約650例の僧帽弁形成術を手掛けてきました。その経験を生かし、様々なノウハウを用いて形成術を行っています。
僧帽弁手術では、MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術)を積極的に行っています。ポートアクセスと呼ばれ、内視鏡を用いて右胸に3~4㎝の傷から手術を行います。これらが可能かどうかは、医師にご相談ください。
三尖弁のほとんどは逆流が生じる三尖弁閉鎖不全症です。
大動脈弁や僧帽弁疾患に伴う二次性のものが多いですが、感染性心内膜炎やペースメーカーなどによる単独の三尖弁閉鎖不全症もあります。多くの場合、三尖弁形成術を行います。ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症に対しても当院独自の方法で形成術可能となっています。三尖弁狭窄症は非常にまれな病態ですが、多くの場合三尖弁置換術が必要となります。