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心臓手術
心臓手術心臓手術From名古屋ハートセンターコラム1
配信日:2013.11.06

コラム:心臓手術に必要な条件とは?手術前にしておくことは?

心臓手術は日々進歩しており、10年前と比較しても飛躍的に安全になっています。それでも、不安・心配はあるでしょうし、自分は体力がない・年だから、といった事で手術を躊躇している方もいらっしゃるでしょう。

そこで、心臓手術を乗り切るための条件をお話します。

心臓手術を乗り切る条件は3つ、厳しい条件ではありません。それらは、

  1. 深呼吸ができること(タンを出せること)
  2. 食べれること
  3. 歩けること

の3つです。この3つができる人は、心臓手術が乗り越えられると考えています。ですから、普通に日常生活を送っていた方は、心臓手術を乗り越えることができるでしょう。なぜ、この3つなのか?それを説明していきます。

  1. 深呼吸
    心臓手術は、全身麻酔で行います。ですから、患者様は手術中は痛くも痒くもありませんし、目が覚めた時には手術は終わっています。
    しかし、全身麻酔では人工呼吸が必要となり、お口から挿管チューブという管が入ります。その状態で寝ていると、肺の下がペチャンコになり(無気肺と呼ばれます)、肺炎になりやすくなります。ですから、お口の管が抜けたあとは、大きな深呼吸をして肺を広げ、しっかりタンを出すことが重要になるのです。
  2. 食べる
    食事を食べて栄養を吸収することは、人間の命の根源をなす作業です。日常生活でも、食事ができないと生きていきません。
    特に手術の後は食べることにより、手術からの回復が早くなる・傷の治りがよくなる・免疫力が上がる・生きている実感がする、など多くのメリットがあります。
    心臓手術の場合、翌日から食事摂取が可能です。食欲が出にくいこともありますが、少しでもいいのでお腹に食べ物をいれてください。それが刺激になり、お腹はどんどん動き出し、食欲がでます。
  3. 歩く
    人類が誕生してから約600万年、人間の体は二足歩行に適した体に進化しています。肺は縦に長く、歩行により腸管は活発に動きます。
    よって、手術の後は歩くことにより、肺が広がりタンが出やすい・食欲が出る、などのメリットがあります。また、胸を切っている場合、寝ていると重力で胸が開く力がかかりますので、立ってしまった方が痛みは少なくなるというメリットもあります。

これら3つを積極的に行うことで、手術後の回復は早くなり、術後合併症にもなりにくくなります。

当院では、これら3つを中心に術後リハビリを取り入れ、できるだけ“早期離床”を目指し、プログラムを作成・実践しています。決して一人ではありません。一緒に頑張っていきましょう!


早期離床

できるだけ早くから座る・立つ・歩く訓練を行い、スムースに日常生活への復帰に誘うこと。
昔は手術の後はベッド上安静!!と言われ、術後はベッドにずっと寝ている状態でした。しかし、その当時の成績は良いものではありません。ずって寝ている状態・長期臥床は体にとって良くないのです。
そもそも、人間は1日の約7割を起きた状態で生活しています。ですから、ずっと寝ている状態は非日常的・非生理的であり、様々な弊害が起きてしまいます。有名な例えで、長期臥床は宇宙飛行に似ている、と言われます。宇宙では重力がありませんので、体の筋肉がどんどん減ってしまい、宇宙飛行士が地球に戻ってきた際に立っていられない状態になってしまいます。長期臥床も、重力から半分開放された状態ですので、足腰・肩周りを中心にどんどん筋肉が衰えてしまいます。また、寝ていると内蔵が横隔膜を圧迫し、肺がペチャンコになりやすくなります。呼吸補助筋(呼吸をする際に使用する筋肉)である肩周りの筋肉が減り、なおかつ横隔膜が圧迫されるため、非常に肺炎になりやすくなるのです。

また、無重力状態では下半身の血液が上半身に“浮いた”状態となるため、過剰な血液は不要とみなされ、尿として排出されます。要は血液量が減ってしまいます。長期臥床でも、下半身の血液は不要とみなされ血液量が減ります。すると、立った際に立ちくらみやフラつきが起こりやすくなりますし、腸管への血液が少なくなり、食欲もでません。
そうなると、ますます筋力は低下し、ひいては免疫力も低下する、と悪循環に陥ってしまいます。これらのことからも、手術を乗り越える3つの条件、深呼吸・食べる・歩くを早くから行うことの重要性がお分かりいただけると思います。


手術前にするべきことは?

手術前に筋力・全身状態が良い方の方が、手術後の回復がスムースであることは証明させています。
よって、手術前にするべきことは、

  1. 深呼吸練習をしておく
  2. しっかり食べる
  3. しっかり歩く、

の3つを行い、全身状態を良くして力を蓄えておくことです。

  1. 深呼吸練習については、鼻から息を吸って口をすぼめて吐く、お腹を膨らませつつ息を吸う(腹式呼吸)などがあります。また、手を上げながら深呼吸をする、肩・首周りの柔軟体操を行うなどもあります。これらで、呼吸補助筋を鍛え、リラックスさせることができます。
  2. 食べるについては、まずは規則正しく食べましょう。塩分は控えめにしつつ、しっかり食べて力を蓄えてください。特に、タンパク質を多めにとるようにしましょう。鶏肉(ササミ)や魚(マグロ・カツオ)などがオススメです。ただし、糖尿病のある方、腎機能が悪い方は医師や栄養士に相談してください。
  3. 歩くについては、1日20分以上の散歩が目標です。20分以上の散歩で、“有酸素運動”に切り替わり、動脈硬化にも効果的な運動となります。速度は、軽く息が弾む程度です。わかりやすい目安としては、人と会話ができる程度の速さで行ってください。会話が途切れるようならば、そこで一旦休憩です。息が整ったら、また歩いてみてください。 余裕がある方は、スクワットやつま先立ちなども効果的です。もちろん、上半身の運動も行って構いません。

これらの3つを、手術前から心がけることにより、手術はより安全に乗り越えられると考えています。是非、お試しください。

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